【東京WS】ブラーゴ先生、日本で最後の授業です!
- 2016/10/29
- 04:02




10月16日(日)、ブラーゴ先生の東京ワークショップ「演技マスター・クラス」の第5日目にして最終日が、芸能花伝舎で13:00から17:00まで開催されました。
今日は、最終回なので、ワークショップの目的の確認から話がスタートしました。
まずは、「自分の体の付き合い方、反応の仕方を見つける」ということです。
ミハイル・チェーホフをするには、このことが大切だということ。
そして、「心理身体的行動」→「言語行動」→「身体的行動」の順番で進んで行く。
はじめに、「心理身体的行動」があり、そして、“イメージ”を持って発する「言語行動」があり、その後に「身体的行動」になります。
演じる際に、「身体的行動」からはじめないこと。例えば、異性を好きになって、初っ端から抱き着かないということですね。(苦笑)
俳優は、“何事にも理由づけが出来ること”が大切なので、好きなことやポジティブに考えること、つまり心にブロックを掛けないことが前提になってくる。
そのための具体的なワークをしました。
〇BGMを聞きながら、床の模様を通して、音とつながり動く。
音楽と一体化して、床の模様から(自分からではなく)、芸術的な動きが生まれてくる感覚を味わう。
次に、Aさんが見つけた、床の具体的な模様を共有して、芸術的な何を見つけたのかを理解して自分も動きます。次はBさん、その次はCさんと続けます。そして、また自分に戻ります。
動きにはすべて、具体的な理由を見つけることが大切です。見せようとするのではなく、自分のひらめきで感じたままに動くこと。この際、初日にしたM・チェーホフの「観察の6つの段階」が有効になってくると思います。
次にしたのは、M・チェーホフの「時間のライン」です。
「今」を表わすポーズとして、起立して右腕を後ろに伸ばします。
そして、「過去」はそのポーズの状態になるまで、どんな過去があったのかを思い起こします。善悪の価値判断はせずに事実だけをとらえます。
次に、「未来」を表わすポーズとして、左腕を前に伸ばして、自分の将来のポジティブなイメージをします。
これは、時間感覚を身につけて、そのラインの中に自分が存在している感覚を得るためのワークです。
このように、M・チェーホフは体(内的感覚)でとらえるレッスンがほとんどです。体でとらえると、目付きが変わるので、それが出来ているかどうかの判断の要素です。
さらに、俳優は自分のエネルギーだけでは足りないので、大きなエネルギーとつながる必要がある。そうでないと、マクベス、リア王、メディアなどは演じられない。
原型(アーキタイプ)はエネルギー体なので、それとつながること!
その際、オリジナルを探すというよりも、自分の中に原型を探すようにする。誰かに見せようとすると探せないので要注意です。
俳優は「道具」である。自分を見せるのではなく、他人(観客)に必要なモノ(エネルギー)を提供する存在だということです。
ここで、BGMを聞きながら、オファーされた原型(アーキタイプ)を探すワークをしました。
注意点は、オファーをイラスト化(図式化)するのではなく、「エネルギー」を見つけることです。体を動かしながら内的感覚で探します。目をキョロキョロさせて外側に探しません。そして、エネルギーをとらえた時に、「彫刻」になって止まります! エネルギーとは止まった瞬間につながれます。このように、キャラクターを造る前のエネルギーを、自分の中から、ポジティブなものを探すレッスンです。
このことは、大阪のブラーゴ先生の授業では参考図書になっていた、ユージェニオ・バルバ著『俳優の解剖学-演劇人類学辞典』(第6章エネルギー)に書かれています。
オファーには、王様、泥棒、殺人者、英雄、賢者、売春婦、兵士…など。自分の体験を持ってくるだけでは、演じられないものばかりです。自分の体のどの部分が、オファーのエネルギーとつながっているのか? 頭で考えるのではなく、感覚としてとらえます。そのためには、自分を目覚めさせる必要があるのです。
次にしたのは、「立場を変える」というワークです。
ペアのそれぞれにAとBの2枚のトランプを配り、握手だけで、相手の番号を当てるというもの。
はじめ、Aのトランプのステータスで握手して、途中でBのステータスに変わります。
途中でステータス(立場)が変わることを正当化(理由づけ)して、内的感覚の変化もつかむこと。そして、相手も変わるので、握手した手から相手のステータスの変化を探します。
次は、「心理的ジェスチャー」を読み取るレッスンです。
円陣になり、全員で同じ心理的ジェスチャーを外に出してから内側に納めて、目だけに出します。そこへ外部から一人がやってきて、円陣の中に入り、心理的ジェスチャーを感じて当てます。
目が内面との通路なので、皆と一体化して、目から入り込むと、エネルギーや身体性にアクセスできると思われます。
授業の後半は、アントン・チェーホフの読解です。
今回は、短編小説は『勲章』『喜び』、戯曲は『ワーニャおじさん』です。
『勲章』の「はじめの出来事」を、「新年の朝」と設定したら、それをどのように演じたらよいのだろうか? と考えること。
「一貫した行動」を「結婚したい」と設定すれば、そのために色々な行動をするだろう。相手を変えたい、相手に影響を与えたいから行動する。
『喜び』の「はじめの出来事」は?
出来事は“事実”であるとともに、人物に“影響を与える”ものであるので、「新年に新聞が配達された」だけではなく、その上で「皆が記事を知る」ということで出来事になる。
「中心の出来事」は、人物の行動が変わるキッカケになる事実なので、「掲載紙を見せた」になる。例えば、ハイヒールを履いているだけでは出来事にはならない。履くことによって振る舞いが変わるなどの、行動が変わったら出来事になる。
「重要な出来事」は?
記事の内容が理解できていると分かるには、それを証明する“事実”がある。
この場合は、「(皆に知らせるために)隣の家に行った」ということ。
『ワーニャおじさん』、第2幕半分少し後、ソーニャとアーストロフが話し合って、アーストロフが退場。ソーニャが残り、少し長いモノローグがあるところから、第2幕の最後まで。
ソーニャのモノローグは、なぜ独りで話すのか? 自分の何と話しているのか?
「はじめの出来事」を考えるについて。
今日、どういうことが起きているのか? 何が「行動」を導いているのか? そして、どういう「対立」からはじまるのかを知ること。
例えば、売却するに値する土地かどうかを鑑定しに来たソーニャの父・セレブリャーコフ、父の体調が悪いので医師・アーストロフを呼んだのに会おうとしない…など。
ここから、読解より離れて、幅広い演技の話になりました。
〇イメージは鮮明化(ビジョン)させること。スタニスラフスキーは寝る前に一日を、ビジョンで振り返った。
〇演技は「行動」の繰り返しである。行動A→行動B、AとBの変化が大切。
「行動」がないと、「サブテキスト」も「即興」もできない。サブテキストは毎回変えるほどの新鮮さがいるし、即興は相手の反応を感じてつかむことが必要。
〇ロシアの演劇は、「状況」を「先鋭化」して追い込む特徴がある。そうすることで、「行動」をしやすくなるため。
〇『三人姉妹』を例にして。「警告する」を心理的ジェスチャー(ex,カミソリ)でして、その上で台詞を言ってみる。すると、イメージが形づくられる。台詞を心理的ジェスチャーで補う。言葉一つ一つにイメージをつけることで、響きが明確になる。
また、心理的ジェスチャーで「抱く」というイメージ。この「心理身体的行動」を、演じる際には「身体的行動」に変えてみる。例えば、頭を撫でるなど。
語り足りないことがたくさんあるブラーゴ先生は、貸館時間をオーバーして、次の時間帯を借りている団体がやってくるギリギリまで、授業をしてくださいました!
本日で、全5日間に渡った東京ワークショップ「演技マスター・クラス」は無事終了しました。大阪のスタート(9/16金)から数えると、1ヶ月の長期間でした。
東京では終了後18:00より、近くの居酒屋で懇親会を行いました。参加者全員がプロ俳優だったので、レッスンの受け止め方が大変に前向きで、舞台や撮影現場での活かし方などにも話が及びました。ワークショップでの刺激を咀嚼して、日々の仕事にフィードバックする覚悟と期待を感じました!
私(八木)自身、東京でも見学して、レッスン内容を大学ノート約20ページに書き留めることが出来ました。大阪と合わせると約65ページです。
そのことを通して、確信できたことをまとめると――
「スタニスラフスキーの演技法を運用するには、ミハイル・チェーホフの手法が有効である」ということです。
また、「M・チェーホフは“天才が秘伝を公開”したものである」ということ。だから、頭で考えても分かりません。やってみて、少しは近づけます。
しかし、日本人にとって福音なのは、M・チェーホフの原理は、日本の古武術や気功整体で古来より実践されているものだということです。
特に、原型(アーキタイプ)からエネルギーを得る考え方は、空手などの型と同じです。
試合や組手では型をそのまま使いませんが、型をしているから実践に応用が利くわけです。同様に、原型や心理的ジェスチャーはそのまま実際の演技では使いませんが、この感覚があるからこそ、自由に豊かに演じることが出来るようになるわけです。
歌舞伎では型が実際の演技と重なっていますが、M・チェーホフの考え方は現代劇に「型」という考え方を導入したということでしょうか。
本当に、灯台下暗しで、日本の演劇人は身の回りからたくさん勉強できると思いました。もっとも、スタニスラフスキー・システムは「人間の自然の法則」「有機的自然の法則」とも呼ばれているので、科学者のように自然や人間から多くのことを学べるのは、当たり前なのかも知れませんね。
(八木延佳/教務主任)
※写真上より、「集合写真」「床の模様を通して動く」「心理的ジェスチャーを読み取る」「懇親会の様子」。
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